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長崎家庭裁判所 平成2年(少)785号 決定

少年 J・S(昭49.8.20生)

主文

少年を中等少年院(一般短期処遇)に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  平成2年7月17日午後11時ころから同日午後11時40分ころまでの間、長崎県諫早市○○町××番地、○○鉄道株式会社○○駅駐車場内において、興奮・幻覚又は麻酔の作用を有する酢酸エチル、メタノール及びトルエンを含有するシンナーをポリ袋に入れみだりに吸入した

2(1)  公安委員会の運転免許を受けないで平成元年10月28日午後7時30分ころ、長崎県北高来郡○○町○○××番地×先道路において、普通乗用自動車、登録番号(長崎××ふ××××号)を運転した

(2)  前記日時場所において、前記車両を運転し同駐車場内において発進しようとしたが、運転免許を受けておらず、かつ運転技術は未熟であったから、運転を差し控えるべき注意義務があるのにこれを怠り、運転を開始したため発進直後駐車場内に駐車中の車両に衝突しさらに同駐車場から国道に進入左折するに際し、中央線を越えて進行、折から国道直進中車両に衝突させ、よって他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転した

(3)  前記日時場所において前記交通事故を起こしたのに、その事故の発生日時場所等法律の定める事項をもよりの警察署の警察官に報告しなかったものである。

(法令の適用)

非行事実1につき 毒物及び劇物取締法3条の3、24条の3同法施行令32条の2

非行事実2の(1)につき 道路交通法64条、118条1項1号

(2)につき 道路交通法70条、119条1項9号

(3)につき 道路交通法72条1項後段、119条1項10号

(処遇について)

少年は、小学校6年生の夏ころから非行が始まり、昭和63年2月児童相談所に係属したが、中学生になっても問題行動は続き、同年12月3日毒物及び劇物取締法違反を犯したため家庭裁判所に係属した。しかし、その後も授業妨害、恐喝やシンナー吸引等非行が続いたことから観護措置がとられ、平成元年6月6日試験観察に付されたが、その間も怠学、恐喝、シンナー吸引といった非行行為のほか、本件2の非行事実を犯すなど行状の改善はみられず、結局先の毒物及び劇物取締法違反の事件につき平成元年10月31日教護院送致決定がなされ、県立教護院開成学園に措置された。同学園では、当初集団生活になじめず、無断外出といった問題行動があったものの、その後は前向きな生活態度で経過していたが、友人関係がうまくいかないとして平成2年6月24日以降は無断外出をして年長者との不良交遊や深夜徘徊といった生活状態を続け(通告事実)、7月17日には毒物及び劇物取締法違反(本件1の非行)を犯した。その後も一旦帰園したものの翌日には無断外出をする状態で、8月2日無断外出以後は開成学園への帰園を拒否し、裁判所の呼出にも応ぜず、県外の姉宅へ身を潜めていたが、同年9月28日に至ってようやく裁判所へ任意出頭してきた。

少年の家庭は、母と弟、妹2人の4人家族で生活保護を受給している。母は、少年を盲目的に溺愛し、関係機関に少年の所在を明らかにしなかったりして、いたずらに少年を庇うばかりで正当な監護ができない。また、教護院は、少年に対しては教護指導は非常に困難として、受入れに消極的である。

少年は、規範意識に乏しく、内省力、自己統制力が弱いうえ、協調性に欠けているので、このままの状態では健全な社会適応ができにくい。

この様な少年の非行歴、性格、環境等を総合すると、少年を施設に収容して義務教育を全うすると共に矯正教育を施し、自己統制力をつけさせ、規範意識と社会性を涵養する必要がある。ただ、少年の中学卒業時期が近づいていることや、県外に居住する姉夫婦に引取り意欲があること等の情況を合わせ考えると、少年には短期集中的な教育を施すことによって、前記目標を達成させるのが相当である。

なお、平成2年8月9日通告に基づき立件されたぐ犯保護事件(別紙通告事由記載の事実)についてみると、立件にかかる審判に付すべき事由は、少年は、無断外出を繰り返してその間不良交遊、深夜徘徊、シンナー吸引等があり、教護院の正当な監督に服さず、このまま放置すれば、その性格、環境に照らして将来同様な犯罪を犯す虞れがあるという少年法3条1項3号イ、ニに該当する事由と解されるところ、本件記録によれば、前記認定の本件1の非行事実は、まさにこの非行の虞れが現実化して犯罪行為に至ったものと認められるから、この犯罪行為について少年を保護処分に付する以上、この事由は情状として考慮すれば足り、これについてさらに少年を保護処分に付する必要はないものといわなければならない。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 小田八重子)

別紙

(通告事由)

少年は、一時期は問題性はあるものの前向きな態度で学園生活を過ごしていましたが、平成2年6月24日以降無断外出を繰り返しております。無断外出中には、有職・無職の年長少年と不良交遊、深夜徘徊、シンナー吸引が多発し、特にシンナー吸引では、言動が異様になり身体が衰弱するなど、極度に健康が阻害されている状況にあります。

気ままな生活に憧れ、学園での学習・生活・クラブ活動等に意義を見出せない状況で、今後学園で教護指導を継続することが、非常に困難な状況にあります。

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